もっと美味しい時間  

広い居間は右半分が囲炉裏、左半分がいわゆる今時のリビング・ダイニングになっている。
慶太郎さんと一緒に飛騨家具のソファーに腰掛けると、キッチンから淹れたての紅茶と焼きたてのチーズケーキを持って母がやってきた。

「比呂志さーん、紅茶入ったわよぉ」

庭に出ていた父を呼ぶ。
慶太郎さんが姿勢を正し、座り直す。その姿から緊張が伝わって、私までドキドキしてきてしまった。
父が縁側から部屋に入ってくると、その緊張が最上級に膨れ上がる。

「二人とも、そんなに引き攣った顔しないで。肩の力抜いて」

そうは言われても……。
ちろっと慶太郎さんを見ても、「はぁ……」と引き攣った顔のまま笑っている。

「あぁそれと、今日は結婚の挨拶に来たんだよね? 堅苦しいのは苦手だから、こっちから一言。慶太郎くん、百花をよろしくお願いします」

そう言うと、母と揃って頭を下げた。
思ってもみない両親の行動に、二人して言葉を失う。
その代わりに私の瞳からは、ポロポロと涙が溢れ出た。

「やだ、なんで涙なんか……」

指で拭っても、次から次へと溢れてくる涙は抑えることができなくて……。

「全く、百花はいつまでたっても子供なんだから」

私の泣きじゃくる姿を見て少しだけ涙目の母が、ハンカチを差し出した。

「慶太郎さん。こんな娘ですけどいいんですか?」

「はいっもちろん。百花さんじゃないと僕が困ります。大切にします」

もうダメ……。
涙腺が壊れたのかと思うくらいの涙が溢れ、声を上げて泣く私の肩を、慶太郎さんが優しく抱きしめた。





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