もっと美味しい時間
「本当はもっとゆっくりしていきたかったんですけど、夕方までには大阪に戻らないといけないので」
「偉い人と会食会があるんだって……」
寂しさから肩をすぼめてそう言えば、両親から見えない所でそっと手を握ってくれた。
一瞬で寂しさが消え、温かさが身体中に広がっていく。
「そうか。慶太郎くんは支社長だったね。休みの日まで大変だな。百花、本当にお前で慶太郎くんの妻が務まるのか?」
「そ、それは……」
「もちろんですっ。彼女がいるから、僕はどんなに大変なことも頑張れるんです。ですから彼女を、百花さんを僕に下さいっ!」
昨日は父に言わせてもらえなかった言葉。
慶太郎さんは、どうしても言いたかったのだろう。満足そうな顔をしている。
でも逆に、その言葉を言われてしまった父は、少し悲しそうに微笑んでいた。
その笑顔に、胸がキュンと切なくなってしまった。
今だって一緒に暮らしているわけじゃない。だから結婚したって何かが変わるわけじゃないのに、何でこんなに切なく悲しい気持ちになってしまうんだろう。
まるで、二人の子供ではなくなってしまうような、そんな不思議な感覚に、心が落ち着かなくなってきてしまう。
「百花。結婚しても、お前は私たち夫婦の大切な娘だ。それを忘れないように……」
そうか……。今気がついた。
慶太郎さんと父は、とても良く似ているんだということに……。
二人共私のことをよく見ていて、その時の状況で私の心の中を瞬時に理解してくれる。そして言葉と態度でで私の心を癒してくれるんだ。
もう結婚式の日まで泣かないと決めたはずなのに、また瞳に涙が溜まり溢れた涙が頬を伝って零れ落ちた。