もっと美味しい時間  

「この後、食事に行くんでしょ?」

「はいっ。春さんのお店に。あっ、綾乃さんも行きませんか?」

私の言葉に、綾乃さんが驚いたような顔をした。

「バカじゃないの? 何で私があなたと一緒に食事しないといけないのよっ」

「理由はないですけど、ご飯はみんなで食べたほうが美味しくないですか?」

どんなに美味しい料理でも、一人で食べるほど味気ないものはない。やっぱり食事は、みんなでワイワイしながら食べないと。
これも母から教わったことのひとつ。
これは毎日ってことではない。一人暮らしをしていれば、自然と一人で食べることが多くなる。だから、みんなで食べるチャンスがある時は、余程の用事がない限り参加してその時間を楽しみなさいって。
だから誘ってみたんだけど……。
用事あったのかなぁ。それとも───

「迷惑でしたか?」

そうだよね。よくよく考えたら、私は綾乃さんの恋敵? になるんだよね。
そんな女とご飯なんて、食べれないか……。

「すみません」

ペコリと頭を下げると、またまた呆れたように大きな溜め息。

「本当にあなたって、お人好しよね。ごめんなさい。今日は先約があるの。また今度、一緒に食事しましょ」

ふわっと優しく微笑むと、長い艶のある黒髪を靡かせて行ってしまった。
口を大きく開けて、唖然と立ち尽くす私。
あ、あの綾乃さんが笑った。それも嫌味な笑いじゃなく、気持ちが伝わるような微笑みだった。
ちょっと嬉しいかも。ここで小躍りしたい気分だ。
でも人目があるから、ここでは止めておかないと……。
でも堪えきれず顔がニヤつき始めると、慶太郎さんと京介が会社から出てきた。
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