もっと美味しい時間
「倉橋の時のトラウマだな。大丈夫だ、心配するな」
ポンポンっと肩を撫でる手が優しい。それだけで、気持ちがスッと楽になった。
慶太郎さんに微笑み返すと、何も言わずただ頷き返してくれる。京介も呆れている感じは拭えないが、顔は笑っていた。
「みんな、お疲れ様。こんなところで何なんだか、本人もいることだし報告させてもらう」
慶太郎さんが真面目に話しだすと、その場がシーンと静まる。
途端に今まで感じていた怖さが緊張に変わり、心拍数が上がってきた。
お姉さん方以外の社員の人も、慶太郎さんの次の言葉を固唾を飲んで待っていた。
「こいつは本社勤務の時の部下。そして今は、俺の婚約者だ」
「藤野百花です。よろしくお願いします」
そう言うと、これでもかというくらい深くお辞儀をした。
慶太郎さんの“婚約者”という言葉に、周りがざわつき始める。
社員の人たちから、「おめでとうございます」とか「支社長、お幸せに」なんて言葉が聞こえ顔を上げると、慶太郎さんが「ありがとな」と返事を返していた。
ホッとひと安心していると、目の前から不穏な空気を感じる。
あっ、忘れてた……。
まだお姉さん方がいたんだった。
恐る恐る顔をそちらに向けると、案の定すごい形相で私のことを睨んでいた。
何? この会社の秘書課の人は、みんな慶太郎さんのことが好きなわけ?
綾乃さんだけでも厄介だったというのに……。
「何だ? 君たちは祝福してくれないのか?」
慶太郎さんが少し悲しそうにすると、お姉さん方が慌てて慶太郎さんに近づく。そして私を無理やり慶太郎さんから離すと、秘書課スマイル全開にした。
何で私が離されなきゃいけないのよっ。
下唇を突き出し、ぶーたれた顔で京介の隣に行く。