もっと美味しい時間
「なぁ。俺、お前たちの運転手じゃないんだぞ」
後部座席で肩を寄せ合い座っている私たちを見て、京介が面白くなさそうに呟いた。
何も好き好んで引っ付いているわけではない。
慶太郎さんが私の腰を抱き寄せてしまっているから、京介からはそう見えてしまうんだろう。
腰に回されている手をキュッと抓っても顔色一つ変えないで、微笑みながら窓の外を見ていた。
金曜の夜だというのにさほど渋滞もなく、車は軽快に走っていた。
あっという間に、春さんの店に到着する。
私と慶太郎さんが車を降りると、京介は少し離れたところにある駐車場まで車を移動させた。
味のある暖簾をくぐると、春さんの元気な声が聞こえる。
「百花ちゃん、いらっしゃいっ! 久しぶりね。慶ちゃんと京介ちゃんもいらっしゃい。奥の部屋、開いてるから」
忙しそうな春さんは、そう言うと厨房へと入っていった。
「百花、行くぞ」
慶太郎さんに背を押され、店の奥へ向う。
そこは以前、京介と来た時に通された部屋。相変わらず荷物は多いけれど、キレイに片付いていた。
「やっぱ、この部屋が落ち着くな」
慶太郎さんも京介と同じ事を言う。
実家を思わせるこの部屋が、二人のお気に入りみたいだ。
靴を脱ぎ部屋に入ると、春さんがビールと突出しの小鉢を持ってきてくれた。
「ちょっとこれでも摘んで待っててね」
「忙しいみたいだな。俺達のことは気にしなくていいから」
「ごめんね。週末だけ手伝いに来てくれる子が、急に来れなくなっちゃって」
それじゃあ店の切り盛りは、春さんとおじさんだけでやってるんだ。
そう思ったら、身体が自然と動いていた。
「春さん。私で良かったら、お手伝いしますっ!」