もっと美味しい時間
「はい、到着っ」
そう言われ目を家の方に向けると、立派なお屋敷が建っていた。
「ウソ……慶太郎さんって、お坊ちゃまだったの?」
「はぁ!? 普通だよ。一般庶民」
イヤイヤ。この大きさの家は、一般庶民じゃ建てられないでしょ?
謙遜するにも程があるっていうのっ。
車の中からただ呆然と眺めていると、慶太郎さんの降りるように促された。
手荷物を持ち車から降りると、音を聞きつけたのか玄関から女性が一人出てきた。
途端に、緊張で身体が固まる。
「思ったより早かったのね」
「あぁ、ただいま、母さん」
やっぱりお義母さんなんだ。
階段を降り駐車場までやって来ると、助手席側で立っていた私を見つけニコっと微笑んだ。
「百花、こっち」
慶太郎さんに呼ばれて、小走りに近づき横に立つ。
「藤野百花さん。本社勤務の時、俺の直属の部下だったんだ」
「は、は、初めましてっ! ふ、藤野百花と言います。よ、よろしくお願いします!!」
「百花、どもり過ぎっ」
お義母さんの前で大笑いするなんてヒドいっ!!
慶太郎さんの腿をキュッと抓っても、素知らぬ顔で笑い続ける。
「慶太郎、笑いすぎよ。ごめんなさいね、百花さん。こんなところで立ち話もなんだし、上がってちょうだい」
百花さんと呼ばれ嫌われてはいないとホッとし、固くなっていた身体が少しだけ和らいだ。