もっと美味しい時間
「次は髪ね」とブラシを手にすると、丁寧に髪を解き始めた。
私は美容院で、人に髪を触られるのが好きだった。水華さんの手つきが気持良すぎて、ついうっとり目を瞑ってしまう。
「へぇ~。あんた気持ちいいとそんな顔するんだ。その顔を慶太郎だけに見せてるかと思うと、ちょっと妬けるね」
急に水華から邦男に戻って艶かしく囁くから、顔から火を吹き出しそうに赤くなる。髪を触る手つきまでもが色っぽく見えて、ドギマギしてしまう。
「おいっ邦男っ!! 百花をそんなふうにイジるなよっ。こいつ、男に対しての免疫力ないっつーのっ!」
「それは余計に興味湧くな。なぁ、俺に乗り換えない?」
「邦男っ!!」
「あら嫌だ。慶太郎は余裕のない男じゃなかったたんじゃないの?」
コロコロと水華さんから邦男に変化する不思議な状況に、頭がついていかない。
「え、えっと……。水華さんは女性? それとも男性?」
可笑しそうにお腹を抱えて笑っていた水華さんが、ピタっと動きを止める。
そして慶太郎さんと顔を見合わせてから、私の両肩に手を置いた。
「ちょっといじめすぎたかしら。心配しないで、私は女に興味ないの。でも百花、あんたにはちょっと気持ちが揺らいじゃった。私の“おもちゃ”としてね」
「お、おもちゃ!?」
私の慌てふためく様子を楽しむように後ろから抱きしめると、耳元に唇を寄せ小さな声で囁く。
「慶太郎に嫌気が差したら、俺んとこ来いよ」
そんなことあるわけないっ!!
そう言おうとした口を手で押さえられて鏡越しにウインクされると、もう何も言えなくなってしまった。
京介といい水華さんといい、私ってからかいやすいのかしら……。
慶太郎さんの親友は、変わった人が多いみたい。