もっと美味しい時間  

「じゃあ寺澤、一週間よろしく」

「いつでも大阪に遊びに来てね。慶太郎さんと待ってる」

「美和先輩、了解しました。藤野、その名前出されると、遊びに行きにくくなるんだけどな」

苦笑する寺澤くんに手を振ると、新幹線のドアが音を立てながらゆっくりと閉まった。

ドアの向こうで、口をパクパク動かしている寺澤くん。声は聞こえないから、その口を一文字ずつ読んでいく。

─── し・あ・わ・せ・に・な・れ・よ ───

「寺澤くんった、もう……」

我慢して堪えていた涙が、一斉に流れだす。
新幹線が動き出し寺澤くんの姿が見えなくなると、美和先輩に抱きつきしばらく泣かせてもらった。

同期入社の寺澤くん。最初部署は違ったけれど、いつも私のことを気にしてくれて、同期の仲間に入れてもらった。何かある度に相談に乗ってもらい、いつしか心を許すようになっていた。

今思えば、私は彼に恋していたのかもしれない───

でもその時、自分の気持ちに気づいていなかった私は、その後慶太郎さんと距離を縮めていくこととなって……。
寺澤くんから好きだと告白を受けた時には、もう私の心の中は慶太郎さんでいっぱいだった。

「寺澤、最後の最後にカッコ良かったねぇ~」

美和先輩が私の頭を撫でながらそう言うと、私は何度も何度も頷いて美和先輩の言葉に応えた。
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