もっと美味しい時間  

タクシーの中から慶太郎さんにメールをしようと、バッグから携帯を取り出して、止めた。
きっと慶太郎さん、まだまだ私たちは来ないと思ってるはず。だったらいきなり行って驚かせちゃおう。

逸る気持ちがオーディオから流れてくる曲に合わせて、私の身体を動かせてしまう。

「お客さん、この曲好きなんですか? 私も好きで、いつの間にか勝手に身体が動いちゃうんですよ」

私が身体を動かせてしまっていたのに気づいたのか、運転手さんが声を掛けてきた。

「あ、はい……。いい曲ですよね」

運転手さんに合わせて言葉を返す。そして心の中で、『実は全然知らない曲です。ごめんなさい』と謝り体の動きを止めると、大人しく座っていることにした。

慶太郎さんと京介が住むマンションは、とても大きく少し高台にあるためよく目立つ。
タクシーが向かう先に小さくその姿が見えてくると、胸が高鳴りそわそわし始めてしまった。

もう何度もタクシーでマンションに来ているから、だいたいの金額は把握している。
財布から千円札を数枚用意していると、タクシーがマンションの前に到着した。
金額を見てみると……

(うん、やっぱり同じ金額)

たまにだけど遠回りをするのか、高く請求されることもあるからね。今日は良い運転手さんで良かった。

気分良く支払いを済ませタクシーから降りようとしたら、運転手さんに呼び止められた。

「はい、これ。今度タクシー使う時は連絡ちょうだい。お嬢ちゃん可愛いから、おじさんすぐに駆けつけるよ」

一枚の名刺を渡され、にっこり微笑まれてしまう。



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