もっと美味しい時間  

「は、はい。ありがとうございます……」

お礼をし今度こそ本当にタクシーから降りると、手を振りながら遠ざかっていく運転手さんに、私も手を振り返して見送った。

「良い人……だよね」

受け取った名刺を見て苦笑するとそれをバッグの中にしまい、エントランス前の階段を軽快な音を立てて駆け上がる。
まるで幼い子供のようにステップを踏みながら2つ目の自動ドアの前まで行くと、鍵をタッチパネルに当てた。ピッと音が鳴ると静かに開くドアをくぐり抜け、エレベーターホームへと向かう。

「やったっラッキー!  一階にいる」

ボタンを押すとすぐに扉が開き、飛び乗った。

もうすぐ慶太郎さんに逢える───

今日からは、すっと一緒に暮らせるというのに、なぜだか今日はいつも以上に逢いたくて仕方がなかった。

「慶太郎さんも、同じ気持ちでいてくれてるかなぁ」

なんて、エレベーターの中でひとりニヤニヤしていると、あっという間に18階に着いてしまった。

「さすが高級マンション!  やることが早いっ!!」

早く慶太郎さんに逢いたい今日の私は、勝手言いたい放題だ。
廊下を一番奥まで進み、大きく深呼吸してから部屋の鍵を開ける。ゆっくりドアを開けて、玄関の明かりをつけて、そして私が最初に目にしたのは……

「あんた、誰?」

私に向かって明らかに敵意をいだく顔をし、威嚇とも取れる言葉を発した、大きな巻き髪が印象的な綺麗な女性だった。
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