もっと美味しい時間
「お疲れ様ですっ!」
好印象を持ってもらうため精一杯の笑顔で挨拶したというのに、その女性は「はっ?」と言い放つと、何いってんのコイツ? みたいな顔をして私を睨みつけてきた。
「何で戻ってくるわけ? ここは東堂の部屋だけど?」
「はい、分かってます。えっと、あなたは会社の人ですよね?」
「…………」
「私は慶太郎さんの婚約者で、藤野百花と言います」
それまで私の言葉を黙って聞いていた女性が、婚約者という言葉に反応し顔色を変えると、クスクスと笑い出す。そしてその笑いはだんだんとエスカレートしていき、いつの間にか私を見下すようなせせら笑いに変わっていた。
「あんたバカじゃないの? 私はね……」
彼女の次の言葉を聞く前に、バスルームから慶太郎さんの言葉が聞こえてきた。そしてその言葉は、私の思考を完全に停止するのに十分なものだった。
『おーいっ、シャンプー取って。なぁ、昔みたいにお前も一緒に入るか?』
「ねぇ分った? そういうことだから、早く帰ってくれる?」
顔を近づけそう言うと、クルッと向きを変えて今までとは全く違う声を出す。
「もう慶太郎ったらエッチなんだから。ちょっと待ってて」
スリッパをパタパタさせてバスルームに向かうと、一度振り返って私にウインクしてみせた。
「じゃっ!」
彼女が脱衣室に消えると、私も慶太郎さんの部屋を後にした。