もっと美味しい時間  

行きはあんなに軽快に登ったエントランス前の階段を、今は力なくとぼとぼと下りている。
キョロキョロと周りを見渡すと、キレイに手入れされている花壇の横にベンチがあるのに気づいた。

「よっこいしょ」

まるでお婆さんにでもなってしまったかのようにそこに腰掛けると、はぁ~と溜め息をついた。

目の前の大きな公園からは、子供達の元気良く遊ぶ声が聞こえてくる。
通りを歩いているおじさんは、あそこの池で釣りでもするんだろうか。釣竿を持っていて、ウキウキしているのがよく分かった。

みんな、楽しそうだなぁ。私も慶太郎さんと、楽しく暮らすはずだったんだけどなぁ。

なのに私ときたら───

たった今、慶太郎さんに裏切られ、失意のどん底。
一瞬にして住むところを失い路頭に迷ってしまった、可哀そうな女の子に成り下がってしまったわよ。
前にも思ったけど、人って悲しすぎると涙って出ないんだね。

もう一度溜め息をつき空を見上げていると、一台の車がマンションの前に停まるのが見えた。
その車をじっと見ていると中から美和先輩が降りてきて、後部座席から荷物を下ろす。

あっそうか、今日は美和先輩も一緒に来てたんだった。そんなことも忘れちゃうなんて、私どうかしてるよね。
ゆっくり立ち上がり歩き出そうとして、小石につまずいてコケる。膝が痛い。
すぐに立ち上がれないでいると、私に気づいた京介が車から降りてこっちに走ってきた。
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