もっと美味しい時間
「どうした? そこで何してんだよっ?」
私の肩を抱き持ち上げ立たせると、服についた砂を払ってくれる。
「百花? 慶太郎さんはどうしたのよ? いなかったの?」
下ろした荷物もそのままに駆け寄ってきた美和先輩が、俯いたままの私の顔を覗き込んだ。
「いたよ。でも一人じゃなかった」
「一人じゃなかったって?」
京介は「そんなはずないんだけどな」と言って首を傾げているけれど、本当にもう一人いたんだからしょうがない。
「もしかして、それ女だったとか?」
美和先輩がそう言えば、京介が今度は目を白黒させて驚いた。
「そんな訳ない。慶太郎にはお前、百花しかいないに決まってるだろっ」
少し声を荒げ、私の肩を揺さぶりながらそう言った。
でもね京介、嘘じゃないんだ。綺麗な女性がいたんだ。
京介が言ったことが本当だったら、どんなに嬉しかったことか。
でも私はこの目で見てしまった。彼女が慶太郎さんに呼ばれて、バスルームに消えていく姿を……。
そのシーンを思い出すと、さっきまでは一滴も出なかった涙が、堰を切ったように溢れだし、私の顔をグチャグチャに変えた。
「美和センパーイ、私、慶太郎さんに捨てられちゃったぁ。慶太郎さん、女の人とお風呂に入ってたぁ~」
わぁんわぁんと泣く私の背中を、美和先輩が優しくさすってくれている。
京介は私の話を聞き終えると携帯を取り出し何かを確認し、「ちょっと待ってろ」と言って、マンションの中に入っていってしまった。