もっと美味しい時間  

「えっと、最初に戻りますが、慶太郎さんの奥さんとして相応しくないって言ってましたけど、それが綺麗で優秀な綾乃さんだったら奥さんとしていいんですか?」

「そ、それは……」

「私は慶太郎さんが大好きです。別れるつもりもありません。でも……明日香さんが認めてくれるまでは、結婚するのを止めておこうと思います」

「えっ?」

「と言っても、もう引越ししてきちゃったんで、一緒に住むのだけは許してください。で、これから、明日香さんに認めてもらえるように、私頑張りますっ!」

綾乃さんみたいに綺麗で優秀にはなれないけれど、それに少しでも近づけるように頑張ることなら私にだってできる。
それで明日香さんが、少しでも私のことを分かってくれたら……嬉しいんだけどなぁ。

「勝手なこと言っちゃって。好きにしたら? 私はそんな簡単に折れたりしないんだからっ」

口調は変わってないけれど、明らかに最初に感じた威圧感はなくなっていて、少しは気持ちが伝わったかなと、笑みが溢れてしまった。

でもその後も明日香さんは家には帰ろうとはせず、反対の方向に歩いて行ってしまった。
私も後を追いかけようとして立ち上がり……

「あれ? 痛い……何で急にお腹痛くなっちゃうの? イタ……イタタタタタ
……」

その場に小さく蹲ると、明日香さんの近寄ってくる足音が聞こえて……。
そのまま意識を失ってしまった。
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