もっと美味しい時間  

あっ、そうだった。話すのをスッカリ忘れてた。
抱きしめられたまま背の高い慶太郎さんを見つめると、少し怒った顔を見せてみた。

「ねぇ慶太郎さん。私の知らないうちに、あちこちでバイト募集してないか聞いてたってホント?」

「あ、あぁ……そのことか」

腰に回っていた右腕を解きポリポリと頭を掻くと、私から視線を逸らした。
何だ、そのわざとらしい逸らしかたは……。
逸らした方へ身体を動かし顔を覗きこむと、バツの悪そうな顔をする慶太郎さん。

「な、何だよ、その顔。ここから近いところでバイトしたほうが、お前も楽だとおもってだな……」

何だか歯切れが悪く無いですか? 本当のところは、違う意味があるんじゃないの?
慶太郎さんに疑いの目を向ければ、観念したかのように大きく息を吐いた。

「まぁあれだよ。お前が大阪の街なかや繁華街で働けば、悪い男が寄ってくるだろ? そうなるとだなぁ、厄介というか何というか……」

「私のことが心配でしょうがないってこと?」

「当たり前だろっ!!」

そんな血相変えて、心配することないんだけどなぁ。

「私は慶太郎さんと違って、誰かにキス……されるようなことしないから、大丈夫なのに」

ははっ、言ってやった言ってやった。
やっぱり時々は、こうやって反撃しないと面白くない。
ほらっ慶太郎さんも、痛いところを突かれて落ち込んで……ない? みたい。
それどころか、右の口角を上げてニヤリと笑うもんだから、背中にゾワリとしたものが走り、逆に身の危険を感じてしまった。
< 281 / 335 >

この作品をシェア

pagetop