もっと美味しい時間  

そのまま言葉も無く抱きしめあっていると、病室のドアがコンコンと音を立てた。
二人で顔を見合わせてから慌てて離れると、私は顔の涙をゴシゴシと拭った。

「失礼します」

聞こえてきたのは女性の声で、ドアが開くと白衣を着た可愛らしい人が立っている。そしてその後ろには、曽我部先生。

「気分の方はどうですか?」

そう言ってにこやかに近づいてきた女医さんが、私の顔を見て神妙な顔つきに変わった。

「もしかしてあなた、泣いてたの?」

そうだよね。かなりの量の涙を流して泣いたんだ。きっと目も真っ赤に充血して、瞼も腫れてるんだろう。
バレて当然。

泣いていたことがバレてしまい恥ずかしくて俯くと、女医さんはクルッと向きを変えて慶太郎さんの前に立ちはだかった。

「あなたが藤野さんの婚約者? こんな大事な時期に彼女を泣かせて、どういうつもり? 今はまだ、心穏やかに過ごさせてあげないとダメでしょうっ!!」

何故だか、慶太郎さんが怒られている。怒られている意味はよく分からないけれど、普段怒られ慣れてない慶太郎さんが怒られている姿は、ちょっと面白いかも。
慶太郎さんも自分が何故怒られているのか、分からないんだろう。何度も首を傾げ、困り顔だ。

「結城先生。彼はまだ、彼女の状況を知らないと思うんですけど。もちろん彼女も」

「えっ、そうなの?」

曽我部先生の言葉に、キョトンっとする女医さん。そして大声で笑い出すと、慶太郎さんの腕をバシバシ叩きだした。
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