もっと美味しい時間  

課長だった頃から仕事は手を抜かない人だったけれど、さすがデキる男は違う。
感心しながら手の甲を撫でていると、慶太郎さんがすっくと立つ。そしてソファーまで行くと、そこに置いてあった紙袋を手にして戻ってきた。

「これ小麦の風の奥さんから預かってきた」

中を覗くと私のバッグと、大好きなクロワッサン。

「ここに来る前に寄ってきて、迷惑かけたことへのお詫びをしてきた。でも逆に、謝られてしまってさ。もっと早くに気づいてあげられなくて悪かったって……」

「そんな。私がやせ我慢したのがいけなかったのに……」

「心配してるだろうから、後で電話しておくよ。退院したら、二人でお詫びに行こうな」

「うん……」

私のことを家族のように思っていてくれるくらい、優しい人たちだ。きっとまだ、気にしてるんだろう。
妊娠してしまったけど、身体が許す限り誠二さんと愛さんの手伝いをしたい。

心から、そう思った───

「それにしても、大変なことになっちゃったね」

「何が?」

「結婚と妊娠、逆になっちゃった。できちゃった結婚ってことになっちゃうのかなぁ」

「気にすることないだろ。子供は出来てなくたって、俺は百花と結婚したいんだし」

「それは私もだけど……」

まだ私のことを認めていない明日香さんは、この妊娠のことをどう思うだろう。
そのことが気がかりだった。

「明日香のこと?」

「えっ?」

どうして分ったんだろう。不思議な顔をして慶太郎さんの顔を見つめると、慶太郎さんが得意そうに笑った。



< 317 / 335 >

この作品をシェア

pagetop