もっと美味しい時間
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退院してからというもの、順調に妊娠生活を過ごした。
年が明け、大きなお腹の重みを日に日に感じながらも、小麦の風で看板娘として働くことは、いい気分転換だった。
「それにしても百花ちゃん。予定日が3月1日のわりに、お腹大きくない?」
常連のお婆ちゃんが、心配そうに聞いてきた。
お婆ちゃんの耳に顔を寄せ、照れくさそうに呟く。
「お婆ちゃん、実はね。お腹の中には、赤ちゃんが二人いるの」
顔を離しお婆ちゃんの顔を見ると、その顔があっという間に極上の笑みに包まれた。
「まぁまぁまぁ、どうしましょう。愛子さんは知っていたの?」
隣で私たちの会話を微笑ましく見ていた愛子さんが、「ごめんなさいね」といいながら小さく頷いた。
「産着をプレゼントしようと思って準備していたんだけど、急いでもう一人分作らなくちゃいけないわね」
私にパンの代金を握らせると、「布は足りるかしら……」などと独り言を言いながら、店から出て行ってしまった。
「愛子さん、どうしよう。私、余計なこと言っちゃったかなぁ」
「いいのよ。あのお婆ちゃんは、あなたのこと孫みたいに思ってるの。気にすることないわ」
私の顔を見てニコッと微笑んだかと思うと、だんだんとその笑みが消えていく。
「身体は大丈夫? もうそろそろお休みしてもいいのよ?」
「はい、ありがとうございます。でも、ご迷惑でなければ、もう少し働かせて下さい。一人で家にいても、落ち着かなくて……。ねっ、ベビちゃん」
そう言ってお腹を撫でると、お腹の赤ちゃんがポコポコと返事をした。