もっと美味しい時間  

すぐに慶太郎さんの元へと走る。私の腕を掴み力強く引っ張ると、スクっと抱きしめられた。鼻が慶太郎さんの胸に当たると、いつもの匂いに安心感を覚える。

「まったく、ラブラブかよ……」

櫻井京介が面白くなさそうに言うと、頭を掻きながら部屋へと入っていく。姿が見えなくなったとこで、慶太郎さんの顔を見上げた。まだ怒っているのか、眉間に皺が残ったままだ。そっと手を伸ばし、頬に手を当てた。

「まだ怒ってる? ごめんなさい。私が無防備だったから……」

私の声に、慶太郎さんの顔が緩む。

「百花は何も悪くないだろ。俺の方こそ悪かった。嫌な思いさせたな」

ううんと頭を振ると、今度は慶太郎さんが私の両頬を包み込んだ。ゆっくりと顔が近づいてくる。それが何を意味しているのか理解すると、そっと目を閉じた。私の唇が、慶太郎さんの唇を欲している。もうすぐ触れる感覚に身体がふらっとすると、抱きしめる腕に力が込められた。
慶太郎さんの吐息が顔に感じ、唇が触れたその時……

「百花ちゃん、鍋が沸騰してるけど?」

櫻井京介の声に、大慌てで慶太郎さんから離れる。

「それに、そういうことは玄関に入ってからしたほうがいいんじゃない?」

からかうようにケラケラと笑いながらそう言うと、玄関のドアから出していた顔をヒョイっと引っ込めた。

「ったく……。あぁーっ、なんかイライラするな」

「と、とにかく中に入ろ?」

「あぁ……。って百花、鍋見なくていいのか?」

「そうだったーっ!!」

具だくさん味噌汁、グツグツに煮えちゃってるかなぁ……。
大急ぎで靴を脱ぐと、あっちこっちに飛び散ったのも気にせず、キッチンへと駆け込んだ。

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