もっと美味しい時間
慶太郎さんも「喉が渇いた」と言うし、先にシマアジのお造りと冷蔵庫にあったほうれん草を使って胡麻和えを出す。
「今から牛肉の八幡巻き作るから、先に始めててね」
冷めても美味しいけれど、やっぱり出来立てを食べてもらいたい。牛蒡の下茹では済んでいるから、あとは巻いて甘辛く味付けるだけ。
慶太郎さんにビールの準備を頼むため呼ぶと、玄関のチャイムが鳴った。
「京介、悪い。出てくれるか?」
「了解」
慣れたようにインターホンに出ると、知り合いなのか話しだした。
「おぉ綾乃。今開けるわ」
綾乃? もしかして櫻井京介の彼女? またひとり増えるのはあまり有り難くないけど、どんな人かは興味がある。
慶太郎さんに顔を寄せて、小さな声で聞いてみる。
「ねぇねぇ、綾乃さんって櫻井京介の彼女?」
ちゃんと聞こえるように言ったのに、返事が返ってこない。身体を揺すってみても、壊れたロボットのように止まったままだった。
「慶太郎さんっ! 慶太郎さんっ!!」
かなり強い力で押すと、やっと気づいたのか「あぁ」と呟きバツの悪そうな顔をする。その顔に不安を覚えると、慶太郎さんに肩を抱かれた。
「百花、俺が大切なのはお前だけだからな」
「う、うん……」
急にどうしたっていうのだろう。そんなこと、今さら言うことじゃないような気がするんだけど……。
不安な心が、今の言葉で更に不安を増やしていく。
そして数分後、その不安は私の脅威となって体中を支配していくこととなる。