もっと美味しい時間
「こんばんは、お邪魔しま~すっ」
玄関から聞き覚えのある声が聞こえてきた。一瞬でその声の主が分かってしまう。
大阪の地で聞き覚えのある声……。そんなの一人しかいない。
その女性がリビングに現れると、思わず声が出てしまう。
「どうして……」
慶太郎さんが肩を抱いている手に力を入れた。その力が強すぎて痛む。
「け、慶太郎さん、痛い……」
我に返った彼が「ごめん」と一言だけ言うと、肩の手を外しリビングにへと向かった。
その光景を、まるで自分には関係のないことのように見つめる。
昼間のことを思い出す。重たい荷物を運ぶのを手伝ってくれた女性。綺麗で、立ち姿が美しくて、優しそうな笑顔。素敵な人だと思っていたのに、別れ際なにが起こったのか、急に冷たく別人に変貌してしまった。
もう二度と会いたくないと思ってたのに……。
まさか慶太郎さんの家で、今日の今日再会してしまうなんて。
彼女の近くに行く慶太郎さんを見て、二人の間に何かがあることに気づいてしまう。
慶太郎さんの顔は強張っているようにも見えるが、彼女の顔は全く違ったものだった。
まるで何十年も離れていた愛する人に逢った時のように、目は輝きを放ち気品さえ漂っていた。
慶太郎さんの腕を掴むと、チラッとキッチンの方へ目だけ向ける。そして勝ち誇ったように微笑むと、その目を慶太郎さんへと移動させた。
「慶太郎。京介が来てるなら、どうして私も誘ってくれなかったのよっ」
少し怒った口調ながらも、腕を掴んでいる手を上下に動かしながら、甘える素振りは忘れない。
二人が並んで立っている姿は、文句なしに似合っていて様になっていた。