もっと美味しい時間  

それでもまだ慶太郎さんの顔を見ることは出来ず、俯いたまま……。

「綾乃と京介そして俺は、大学時代の同期生だ。ゼミで一緒になって、いつも三人で過ごしていた。そしてそのうち、俺と綾乃は付き合うようになった」

やっぱり……。何となくそうだとは思っていたけれど、慶太郎さんの口からその言葉が出ると、胸がズキンと痛む。。
慶太郎さんと綾乃さんの関係をハッキリ知りたかったのに、今は耳を塞いでしまいたい気分だった。

「綾乃は百花と正反対な性格で、勝気だし負けず嫌い、言いたいことはハッキリ言う。学生の頃の俺は人見知りが激しくてさ、弱い俺からは綾乃が輝いて見えたんだ」

私が知らない頃の慶太郎さんの話。すごく興味のある話なのに、綾乃さんの名前が交じるだけで聞いているのが辛くなる。
昔のこと昔のことと自分に言い聞かせても、昔の彼女に負けそうな自分がいた。

「だけど卒業を機に俺がここを離れることになって。最初の頃こそ連絡を取り合っていたけれど、だんだん音信不通……」

えっ……。それって、ちゃんと別れてないって言うこと?
慶太郎さんはそのつもりだったとしても、彼女は待っていたとか?

『今まで心配してたのがバカみたい。これなら楽勝じゃない』

彼女のあの言葉は、私に対しての言葉だったんだ。
悪い方向にばかり考えてしまって、これ以上は聞いてられそうにない。
手当が終わった足を慶太郎さんの膝から下ろすと、無理に笑顔を作ってから顔を上げた。

「け、慶太郎さん、ちょっとコンビニまで行ってきてもいい? 今日買い物に行く途中に見つけたんだ」

慶太郎さんが苦笑しながら頬に手を当てる。

「この顔で行かせるわけにはいかないな」

そんなにひどい顔してるのかなぁ……。
それでも今はこの場所に居たくなかった。
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