神名くん
そんな、私の様子を見て目の前でくすりと笑ったのは先生でした。私は、先生が見ておられると言うのをすっかり忘れていたのですから、少々拗ねてしまいました。唇を尖らし肩をすくめ先生を睨む感覚でみつめていると、先生は再びくすりと笑ったのです。女性がしている仕草なので妙に色っぽく、妙に妖艶じみていました。同性(先生は男性ですが見た目が女性なので)でも、惚れてしまいそうな艶っぽさに少しだけ見とれてしまったことは内緒です。
そして、くすりと笑った先生は楽しそうに口角をあげて口を開いたのです。
「ごめん。ごめん。あまり山本という女の子のことを知らなかったからね。こういうところを見てしまうとどうも女子高生が可愛くて仕方ないよ。」
「エロ親父発言でしょうか、先生。それは生前に言うべきでしたね。先生のファンの女の子たちだなんて沢山おったでしょうに。」
「そうだね。でも、俺からみたら君たちは可愛い生徒だったから。」
「私もですよ。私も、先生は尊敬できる方でした。いつも、優しく生徒と親身になって話をし、更に生徒たちに親しまれる先生で、授業がとても分かりやすい。とても素晴らしい先生でした。」
私が、敬意をこめて確かに言ったのです。すると、先生はどこか、寂しそうにまつ毛を伏せて「ありがとう」と、消え入る声で答えたのです。私は、先生の心情がどことなく撮れてしまった。そして、とったあとに私の言葉に少々後悔を覚えたのです。私は、全て先生に対して過去形で話をしていた。魂という存在であっても、確かに先生は私の目の前にいるのですから、今はまだ存在しているのですから。
ですが、一度発してしまった言葉は取り消すことなど出来ないのです。私は、自分の発言の浅はかさに嫌気がさしかかってきたころでした。そっと、私の頭に触れる微かな温もりを感じました。驚き、顔をあげると、優しい笑みで久水先生が私の頭を撫でていたのです。それは、全てを悟って全てを受け入れた表情にも見えました。私は、そっと先生に目を向けると目を細めました。どうしてでしょうか、妙に泣きたくなったのです。すると、途端に橙色だった景色が一気に冷たい色にと変わったのです。そうですね、薄いですが蒼い色をした一面と言ったらいいでしょうか。これが私の中の悲しいというイメージなのでしょう。
辺りは少しだけ冷たく寒く感じたのは、きっと私が抱いている悲しいというイメージのぬくもりなのでしょう。