饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「いえ。我々も実は、途方に暮れていたところで。何せこの虎邪が、旅の用意も調わないうちから飛び出したもので」

 緑柱が、ずいっと前に進み出、神明姫に跪く。

「初めまして。私はこの虎邪の側近・緑柱と申します。以後お見知りおきを」

 優雅に神明姫の手を取り、軽く口を付ける。
 横では虎邪が、○ンクの『叫び』になっていた。

「あああっ。こ、こちらこそっ」

 慌てて緑柱から手を取り返し、神明姫は赤くなって狼狽える。
 その様が、また可愛らしい。

「あの、宿がお決まりでなかったら、お困りでしょう? どうぞ、我が屋敷へおいでください。元々神官様をお迎えする予定でしたのに、それらしい一行が見えられないので、心配していたのです」

 やっと神明姫が本来の用事を思い出し、先に立って歩き出した。
 いきなり会った可愛い姫君と一気にお近づきになれて、虎邪は舞い上がった。

「それで、この夜道をわざわざお迎えに出てきてくれたのですか? ああ、何というお優しい・・・・・・。感動で、胸が張り裂けそうです」

 胸に手を当てて言う虎邪は、普通なら周りが引くほどのオーバーさだが、幸いにして、外見がそれなりに整っている。
 気障ったらしい仕草も、様になるのだ。
 振り返った神明姫も、一瞬虎邪に目を奪われた。
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