饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「な、何を言うのです! 神官様が、そんなことするわけないじゃないですか」

「? 何故そう言い切れるのです? 確かに神官の住まう家は、驚くほどのあばら屋ですが、そりゃ豪勢な建物などにしたら、そういったことがバレバレじゃないですか。神官ってのは、そういう悪知恵は得意なのですよ」

「・・・・・・!」

 なおも虎邪に食って掛かろうとしていた神明姫だが、他ならぬ『神官』その人から言われていることだ。
 考えてみれば、家こそあばら屋だが、そこに住まう神官は、着ているものは上質だ。
 あのようなあばら屋に住んでいるにしては、似つかわしくない出で立ちかもしれない。

 あのあばら屋だって、中はどうなっているのか、さっぱりわからない分、あのいかにもな外見は、わざとらしいといえばわざとらしい。

 疑い出すと虎邪の言うことも、あながち外れてはいないのかも、とも思えるが、だからと言って長年信じてきたことを、この昨日今日会ったばかりの、力もなさげな若年神官の一言で覆してしまうほど、神明姫は単純ではない。

「ちゅ、中央都市ではそうかもしれませんが、ここまで一緒に考えてもらっては困ります」

 ぷいっとそっぽを向いて言う神明姫に、虎邪は苦笑いをした。
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