饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「ねぇ姫君。あなたは都市には、興味はありませんか?」

 虎邪が立ち上がり、神明姫の前に歩み寄る。

「あなたのように可愛らしいかたが、このような小さい町に燻っているのは、勿体ないですよ」

「あああ・・・・・・あの、そそ、そんなことは。それに、私はここしか知りませんし、興味といっても・・・・・・」

 虎邪が近づいた分、神明姫は後ずさる。
 虎邪は足を止め、ふ、と息をついた。

 その表情に、神明姫は、どきりとする。

「あのっ。お出かけされるのでしたら、ご一緒しましょうか?」

 思わず口を突いて出た言葉に、言った本人である神明姫自身が驚いた。
 当然姫の少し前に立つ虎邪も、少し目を見開いている。

「あ・・・・・・えっと、き、昨日は神殿にしか行ってませんし・・・・・・。町のほうに行かれるのでしたら・・・・・・」

 もごもごと言いながら、姫はちらりと虎邪を見た。
 先程神明姫が慌てて後ずさったら、虎邪は少し、悲しそうな顔をしたのだ。

 その表情が何とも言えず、姫は思わず自ら虎邪に歩み寄ってしまった。
 言ってしまった以上、引っ込めることもできず、神明姫はもじもじと下を向いた。
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