饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「姫はここしか知らない、と仰いましたね。・・・・・・ではこの町のことは、昔から知ってますか?」

 少し経ってから聞こえた声に顔を上げれば、虎邪が顎に手を当てて、何か考え込んでいる。
 おそらく初めて見た、虎邪の真剣な表情だ。

「え・・・・・・昔といっても、私が直接知っていることなど、知れてますが」

 質問の意味が今ひとつわからず、神明姫は曖昧に答える。
 その答えに、虎邪は一転して、にぱっと笑った。
 元の、軽い雰囲気が戻る。

「そうですね。姫君はまだ、お若いですものね。昔のことなど、わかりませんよねぇ」

 再び虎邪、魅力全開。
 神明姫は、くらくらしながら言い返す。

「でっでも、外のかたよりは詳しいですよ。長の娘ですから、祭事などにも詳しくないといけませんし」

「ほぅ。あ、そうそう、この町には、昔ながらの秘儀めいたものがあるとか?」

 びく、と神明姫が強張る。
 ちら、と傍らの露を見、どうしたもんかというように、考える素振りを見せた。
 それに気づき、虎邪は緑柱を促す。

「じゃ、お言葉に甘えて、今日もご一緒願いましょう。男二人で出歩くよりも、可愛い姫君がいたほうが楽しいですしね」

 へら、と笑って神明姫の腰に手を回すと、虎邪はそのまま、姫を掬い上げるように、外へと連れ出した。
< 45 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop