饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「あ、あの。どこへ?」

 屋敷を出てしばらくしてから、ようやく神明姫は虎邪に問うた。
 腰を掴んだまま、半ば引き摺るように姫を連れていた虎邪は、やっと歩を緩めた。
 が、依然手は姫の腰にある。

「ああ、とりあえず、川の下流へ」

 そう言ったときには、すでに前方にきらきら光る水面が見えていた。
 虎邪は川に近づき、中を覗き込む。
 緑柱も同じように、辺りの水の中をきょろきょろと見渡した。

「特に何もないねぇ」

 のんびりと、緑柱が言う。

「ほら見ろ。何もないなんてことがあるか。これで、誰かが供物のおこぼれにありついてるってことが証明された」

「え、え? どういうことです?」

 自信満々に言う虎邪に腰を掴まれたまま、神明姫は何が何だかわからない、というように、水面と彼らを見比べる。

「神殿の老神官は、ちゃんとした人のようですね。供物も大して掠めてなかった。どうやらこの町には、神官の他に供物を掠める輩がいるようです」

「輩だなんて。神が受け取っているのです」

 キッと睨む神明姫に、虎邪は冷めた目を向けた。
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