饅頭(マントウ)~竜神の贄~
 じっと虎邪を見ていた神明姫は、先程からずっと緑柱ではなく虎邪を見つめていたことに気づき、慌てて緑柱を捜した。
 その緑柱は、いきなりきょろきょろし出した姫を、ちょっと怪訝な表情で見ている。

 緑柱と目が合ったが、神明姫は別段慌てない。
 『あ、いた』ぐらいの感想しか出て来ないのは、見つけたことに対する率直な感想なので気にならないが、神明姫は、あれ? と不思議に思った。
 良くも悪くも、全く心は騒がないのだ。

「姫ぇ~。そんなに緑柱を見つめないでも」

 いきなり掴まれた腰を引き寄せられ、神明姫は我に返った。
 振り向くと、虎邪が見つめている。
 何度か見た、薄笑みを浮かべたその顔に、神明姫の鼓動は跳ね上がる。

「なっ何言ってますのっ! そそ、それより、いい加減に放してくださらないっ?」

 ぐいっと虎邪の胸を押し、姫は素早く身体を離すと、たたっと駆けだした。
 が、その足はすぐに止まってしまう。

「・・・・・・おや?」

 虎邪が神明姫の前方に立ちはだかる三人ほどの男を捉えた。
 でっぷりと肥えた男を中心に、両脇を固めるように、柄の悪そうな男が二人。
 両脇の二人は破落戸(ごろつき)風だが、意外に中央のデブは、身なりは良い。
 そのデブが一歩前に出、神明姫に笑いかけた。
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