饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「姫ぇ。あのおっさんは、何者なのです? えらい威張っておりますが、品の欠片もありませぬな。まさかとは思いますが、姫の婚約者などではありますまいな? そうだとしたら、俺は姫の趣味を、真っ向から否定して差し上げますよ」

 きらきらと、虎邪が笑顔を向ける。
 姫はまたくらくらしながらも、ぶんぶんと必死で頭を振った。

「ととととんでもないっ! あのかたは、あの・・・・・・。隣町の有力者で。えっと、その・・・・・・父と、ちょっと揉めてまして。この町は、水害は多いですが、その分良く作物が育つもので・・・・・・」

 歯切れ悪く、姫が言う。
 不意に今まで存在すら忘れていた緑柱が、姫の話を引き継いだ。

「つまり、隣町の有力者が、この町も手に入れようと、ちょっかいをかけてきているわけですか。そういえば、隣は結構な荒れ野でしたな。そこの町からすると、なるほど、確かにこの地も欲しくなりますな。ふ~む、姫を手に入れ、平和的に町を手に入れる算段か」

「あ、あの・・・・・・」

 折角神明姫がぼかした気遣いも、ずばりと言われて木っ端微塵に砕けてしまった。
 おろおろとする神明姫の肩を抱きながら、虎邪が思いきり不愉快そうに眉を顰めた。
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