饅頭(マントウ)~竜神の贄~
第八章
 夜が更けて。

 長の屋敷では、ささやかな宴会が開かれていた。
 宴会といっても、長とその妻、親戚一同、あとはごく親しい者たちだけだ。
 賑やかな音楽もなく、むしろ悲しみに沈んでいる。

「・・・・・・何故神明(シェンミン)姫なのだ。たった一人の娘だというに・・・・・・」

 長が目頭を押さえながら言う。
 その言葉に、皆からもすすり泣きの声が上がる。

「お父様、お嘆きにならないで。これで水害が収まるのであれば、喜ばしいことではありませんか。むしろ、長の娘たる私の役目であるべきだと思います」

 皆が嘆く中で、一人神明姫だけが、毅然とした態度で言った。

 神殿からの通達が来たのは昼前。
 十数年ぶりに行われる祭儀の生け贄に、神明姫が選ばれた、というものだった。

 驚いたが、皆一応そういうことの認識はある。
 誰が生け贄に選ばれても、従わなければならないということは、わかっているのだ。

 明日の夜には、姫は神殿に赴く。
 今夜は最後の、別れの宴だ。
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