饅頭(マントウ)~竜神の贄~
 神明姫の目から、涙がこぼれた。
 やはり、あの夢は正夢だった。
 そして、やっぱり最後は、自分はあの人の手で殺されるのだ。

 ぼろぼろと涙を流す神明姫を無表情で見下ろし、虎邪は掲げた剣を、一気に姫の首目掛けて振り下ろした。
 その瞬間、川の水が一瞬大きくうねり、斬り落とされた生け贄の頭を攫った。

 一瞬の出来事だった。
 あとは元のように、静かに水が流れ、何事もなかったかのように、フクロウの声が響く。

 しん、と沈黙の落ちた神殿で、やがて、ふ、と虎邪は息をついた。
 振り下ろしたままだった剣を、静かに鞘に納める。

 その剣には、少しの血も付いてはいなかった。
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