ポチタマ事件簿① ― 都会のツバメ ―


 マンション管理部のフロア。
 パソコンを置いた事務机や、アルミの書類棚が整然と並んでいる。
 社員の姿はまばらで、この時間ならすでに外回りに出ている方が多い。

 ポチは自分の机にかばんを置いた。
 一息つく暇もなく、課長が少し離れた席から手招きをしている。
 遅刻を叱責されるのではない。
 自殺があって警察の聴取を受けたことは、すでに電話で報告済みである。
 しかし、課長の眉間には、離れていても分かるくらい深いしわが寄っている。

「ツイてないな」

 隣の席の同僚だ。
 同僚はポチの肩を叩いた。
 その表情は、憐れみ半分、他人ごと半分。
 同僚は小声で言う。

「課長、朝イチで部長から詰められてたから、かなりイってるぜ」

「マジで? はぁ、たまんねーなぁ……」

 ポチと同僚は、巧みに課長から見えない角度でぼやきあった。

「大島ァ!! 呼んでるんだからさっさと来い!」

「は、はいっ!!!」

 ポチは大急ぎで課長の席へ走った。
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