ポチタマ事件簿① ― 都会のツバメ ―
――日本の自殺者は年間三万人あまり。
東京は約三千人でダントツの一位。
二位の大阪で約二千人、三位の神奈川では約千九百人。
東京でマンション管理を生業にしていれば、自殺に出くわすのも仕方ないのかも知れない。
しかし、同僚の言う『ツイてない』というのは、自殺に出くわしたこと自体ではない。
もちろん、課長が著しく不機嫌だということだけでもない。
『ツイてない』というのは、自殺の方法が、『飛び降り自殺』だということだ。
今回の事故(自殺のことを「事故」と称するのだ)は、飛び降り自殺――『共用部分での自殺』である。
それは、共有部分の持ち主である『所有者全員に影響する自殺』であることを示していた。
さらに、警察が介入しているので『表沙汰になっている』――隠ぺいができなかった――ことも不運と言えた。
本来、管理上の過失でもなければ、管理会社には自殺に関しての責任はない。
しかし、所有者たちは、自分たちに不利益があれば、それを事業者である管理会社に転嫁しようとする。
悪しき消費者心理の産物である。