ポチタマ事件簿① ― 都会のツバメ ―

「そんなのはわかってる! 揚げ足を取るんじゃない!!」

「――はい、すみません」

「俺が言ってる意味がわかんないのか!?」

「――はい、すみません」

「どうにか自殺をゴマかせなかったのかって言ってるんだ!」

「――はい、すみま……って、いえ、さすがにそれは……」

「なんだ?」

「……すでに表沙汰になっていたので無理でした」

 課長の眼光が一段と鋭くなった。


 ――キレイごとだけではメシは食えない。
 管理会社は『表沙汰にしない対応』をすることで所有者から好感を得られるのだ。

 例えば、部屋の中での自殺なら、警察の現場検証はマンションの一室の中だけで行われる。
 発見するのは自殺者の親族がほとんどなので、目撃者も野次馬もまずいない。
 親族は自殺のことを内緒にしたがるので、自殺の事実が周辺に漏れることも少ない。
 自殺とはセンシティブ情報(機微な情報)で、その守秘は個人情報保護法でも定められており、管理会社としては法的な義務がある――という建前によって、管理組合に対しては敢えて報告をしない。
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