ポチタマ事件簿① ― 都会のツバメ ―
 
 しかし、壁に耳あり障子に目あり、マンションには防犯カメラあり――だ。
 課長の言う、「ゴマかせ」というのは無理というものだろう……。


「大島ぁ! それをどうにかするのがおまえの仕事だろ!! あぁ!? おまえがやるのと違うんか!!」

「――はい、すみません」

 もし本当に『どうにか』した場合、発覚すれば高い確率でポチは懲役三年以下の『堀の中』生活だ。
 今回に限らず、この課長の言い分を過不足なく実践した場合、一年も経たないうちにポチたち課員の全員が懲役刑になってしまうだろう。
 しかし、少しでも口答えすれば、課長の逆鱗に触れる。
 課員たちにとって、最も被害を少なくできる魔法の言葉が『はい、すみません』だった。
 ポチも、今だけで何回、唱えただろうか。

 しかし、今日の課長はさらにヒートアップする。
 部長のせいかもしれない。
 きっとそうだ。

「いいか! 俺が若い頃はなぁ、こんくらいの自殺なんか、隣の敷地まで死体を引きずっていったもんだ!」

 課長は自分の熱弁を聞けとばかりに、課員全員を見渡した。
< 15 / 58 >

この作品をシェア

pagetop