ポチタマ事件簿① ― 都会のツバメ ―
課長の大演説の始まり。
要領の良い課員は、携帯電話で話すふりをして外へ出て行った。
間に合わなかった課員は、課長の熱弁を神妙に聞くふりをした。
「全部を隣へ持ってく必要はないんだよ! 上半身、体の三分の二が向こう側ならいいんだ! そうすりゃ、発見場所は隣のマンションにできるんだ!」
課長は、怪しげな自論を展開した。
「万が一、落ちた場所と違うなんて警察に言われても、転落の勢いで弾んで転がったんだ、くらい言っときゃ大丈夫だ! あいつらだって、自殺で処理をさっさと終わらせたいんだから、いちいち調べやしない」
そういう警察ウラ事情もあるのかも知れないが、だからといって死体遺棄をして良いという理屈にはならない。
「ただ、同業者には要注意だ」
課長は意味ありげにポチを見た。
「昔、俺が死体を隣にぶん投げたときだが、警察を連れて現場に帰ってきたら、死体がこっち 側へ戻ってきていやがった」
「は? 死体が動いたんですか?」
「ばかやろう、死体が動くかよ! 隣のマンションの管理人が、俺の真似してこっち側へぶん投げたんだよ」
ニヤリ、と課長は笑った。