二度目の恋

第十五章

薄い霧が、愁と美月を包むようになだらかに流れた。大きな湖も遠い影となった。いつも晴れ渡るこの湖も、今日は少し曇り加減だ。美月は草花の間に座った。愁は落ち着かずに美月の周りをウロチョロしていた。
「美月、何で元気ないの?何か怒ってる?僕なんか変な事した?」
 美月は顔を横に振った。座ったまま動きはしなかった。愁に少し不安が過ぎった。
「ねえ、さっきの写真は……何?」
 愁は言葉に力んで聞いた。だが美月は黙っていた。
<何で黙ってるの?美月はパパを知ってる?>愁は疑問に思ったが、それ以上何を言っても美月は答えてくれないことは解っていた。だから、とりあえず美月を元気づけようとした。
「ねえ、知ってる?アメリカの夜って言う本」美月は首を横に振った。「その本に出てくる主人公は、僕らと同じ年の少年なんだ。その名はドーク。ドークシンガーソン。ドークはアメリカの田舎の小さな村にすんでいた。ある日その村に魔物が襲ってきて、村のみんなをさらっていったんだ。奇跡的に逃げ切れたドークが、魔物と戦いながらヒーローになっていく物語。川に浮かんだボートに乗って冒険するんだ。」
 愁はすでにドークになりきっていた。体中でその様を表現していた。
「ドークは剣で魔物を切り砕く。どんなに強い魔物だって、ドークの敵にはならなかった。なぜならドークには秘密があるんだ。ドークの持ってる剣。それは冒険の途中に不思議な泉で見つけた。どこからか湧き出る泉に埋まっている岩の中にあった。ドークがその剣を振り放つと光があらわれて、魔物が切り裂かれる……」
 愁は夢中で話していた。美月は国利と話した話に不安と疑問を浮かべながらも、愁の話に耳を傾けていた。
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