二度目の恋
「ドーク。ドークシンガーソン。彼は次々と魔物を倒していく。そして最後に魔物の王に戦いを挑むんだ。たった一人で、みんなを救うため……だけど王は強くて切り裂くことは出来なかった。それどころかドークが切り裂かれそうになり、体力にも限界が来ていた。ドークは最後の力を振り絞って剣を空に掲げ、王に向かって走った。するとドークの体に光が走り、王の魔力も跳ね返してとうとう王を切り裂いたんだ。そして村の人々は助かった。だけどドークは……ドークは体力の限界を超え、その場に倒れて息を引き取ったんだ……僕は、ドークになりたかった」
 愁は少し黙った。そんな愁を美月は見た。そして愁は斑と湖を見た。するとそこに一つのボートがあった。
「ボートだ……」
 美月はその言葉で湖を見た。確かにボートはあった。愁は美月に手を差し伸べた。
「ボート……乗ろう。ドークみたいに冒険するんだ。勇気を沸かそう」
 美月は愁の手を取ると、二人は湖に向かって走っていった。


 ボートに乗っていた。ゆらりと揺れながら湖の中央に浮かべ、愁と美月は心を落ち着かせていた。霧が周りの全ての視界を消していた。
「何か、時間が止まったみたいだね」
愁が言った。
「うん」
「美月、少し落ち着いた?」
「うん大分」
「何があったの?」
「ママのこと。ママが死んだとき、何があったのかって」
「何か分かった?」
「少し……でも分からないことはたくさんあるの」
美月は俯いた。
「じゃあ、何か分からないことや、悲しいことがあったらこうすることだ!」
 愁は突然ボートを揺らし始めた。横に大きく揺れ、湖の水は大きく跳ね上がって波打った。
「愁、やめて!」
美月は叫んだ。
「こうやって大きく揺れると、苦しいことや悲しいことが忘れられるんだ」
 愁は笑いながら言い、その行動を止めはしなかった。
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