二度目の恋
そう言い捨てると恵子は席を立ち、台所に向かい、勝手口を出た。
 また、勝手口から恵子が戻って来ると手には小さな器を持っていた。その器にドッグフードを入れ、愁を呼んだ。
「これ、リュウにあげて」
 恵子が言った。
「うん」
 愁は頷いて行こうとすると亨が呼び止めた。
「愁、リュウに飯をやったら鎖外してやれ。あいつ、飯の後は家の中に入りたがるから」
「分かった」
 勝手口を出た。するとリュウは尾っぽを振って愁の方へ向いていた。リュウとは愁が飼っている柴犬だ。まだ子犬だが頭がよく、愁にものすごくなついていた。愁はリュウのもとに器を置くと、リュウが美味しくご飯に噛り付いた。リュウの鎖を外し、しゃがんで食事をしているリュウの頭を撫でた。さわやかな風が流れた。愁はふと顔を上げ、立ち上がって村を見た。仄(ほの)かな香りがした。雑草の生えきった空き地と田園がこの香りを漂わせた。
 一点に目が置かれた。五十メートル、いや、六十メートルは離れているだろうか。隣の家が見えた。先程話ていた噂の空き家だ。今日は月も隠れて影さえできない。
<ブラックだ!>愁は思った。<あの時と同じだ。影が……ない>愁は唾を飲んだ。あの話を思い出し、また遠くにある家を見た。その時、空き家から二つの光がピカッと光った。愁の身体が一瞬にして固まり、足元から震えが上昇してきた。そして一目散に勝手口へ走って、思いっきりドアを閉めて家の中に逃げ込んだ。だがまた、恐る恐る勝手口へ戻り、数センチドアを開けた。
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