二度目の恋

第二章

リュウが勝手口の透き間を鼻で開けて、家の中に入ってくる。愁はテーブルで本を読んでいる。『アメリカの夜』というマイケルビッシューネが書いた冒険活劇だ。恵子は台所で、食器をかたしていた。亨が愁に近づいて、小声で言った。
「出掛けよう」
「どこに?」
 愁が言った。
「シッ、声がでかい。ママに聞こえるだろう」
「何処に行くの?」
 愁が小声で言った。
「いつものだ」
「いつもの?」
「役場だ」
 愁は少し考え、思い出したように言った。
「ポーカーゲームだ!」
 リュウが愁の足元に寄り添って歩いてきた。亨は少し台所の恵子の動きを気にしながら、愁に言った。
「ああそうだ。ママに内緒で出るぞ。見つかるとまた煩(うるさ)いからな」
「リュウは?」
「リュウは置いていけ。散々だ」
「この前のこと?」
「ああ、この前もママに内緒で出掛けようとしただろ。俺とお前とリュウと、役場へポーカーゲームをやりにだ。そっと外に出ようとしたらリュウが吠えた。計算外だったよ」
「でもリュウが悪い訳じゃ……」
「確かにそうだ。あの時も俺等は咄嗟に走って逃げられたが、問題はその後だ」
「その後?」
「家に帰ってからだよ。お前はすぐ寝たからいいが、俺はママに散々叱られた」
「でも…」
「ママはギャンブルも嫌いだが、お前を連れて行くことによく思ってないんだ」
「でも、でもリュウは連れて行きたいよ。いいでしょ」
「だめだ、今回だけは置いていけ。今日は珍しくメンバーが全員揃うんだ。パパはいろいろ話すことがある。リュウのことで気を散らしたくないんだ」
 愁は少し俯いた。亨は少し言いすぎたと思って愁を見た。亨は寂しそうにしている愁に優しく話した。
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