二度目の恋
美月もそのペースについていくため、無理して走っていたがとうとう足がよろけ、バランスを崩してその場に転げた。愁の手が引っ張られ、後ろを振り向くと美月が右足を押さえて座っていた。「大丈夫?」愁が立ち止まり、美月に近づいた。「なんか躓いて、足を擦りむいたみたい」美月が言うと、愁は美月が右足を押さえる手を退かした。すると血は出ていないが、微かに擦り切れていた。「血は出てないね。まだ走れる?」美月に聞いた。「大丈夫、ちょっと擦りむいただけだから」そう言った。「いいよ、無理しなくて」愁が言うと、美月に背を向けた。「僕に乗って!」愁は言った。美月は少し躊躇(ためら)ったが、ちょっと顔が綻びの笑みを浮かべた。そのとき、ガサッガサッとゆっくりと草を踏み歩く音が聞こえてきた。愁は恐る恐る後ろを振り返った。その音は近づいてくる。落ち着いた音だが確実に近づいていた。美月に再び震えが起こった。愁は静かに美月の名を呼んだ。「美月。美月、早く、早く」美月は動けなかった。するとその足音は止まる。愁はジッとその場に耐えた。草と草の隙間から二つの手が出てきて、その手が草の束を掻き分けると、直也の姿が二人の前に現れた。愁は体をしゃがめたまま、直也の顔を見た。直也は腰を低くして、座り込んでいる美月の手を黙って握った。そのとき愁は直也の顔が自分に近づいて睨みつけたように見えて、体中の筋肉が強張(こわば)って瞼さえ動かなかった。直也は美月の手を取って、美月はその直也に従うままに静かに立ち上がり、そのまま引き摺(ず)られていった。愁の目の前からまるで何処かの暗闇に消えるように、美月は草むらに入り込んで消えていった。
満月は美しく、そのススキのたくさん生えている原っぱを映し出していた。一人草に埋もれる愁と、家に向かって美月の手を引っ張り歩く直也。それに抵抗もせずに引き摺られる美月の姿があった。
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