二度目の恋

第十六章

車のヘッドライトの光はぼやけていた。この村には珍しく、うっすらと霧が掛かっている。波打って丘が立ち並ぶ。辺りは暗く、真夜中だった。車は止まった。ヘッドライトの光が眩く光っていた。運転席のドアが大きく開かれる。すると車の中から竹中直紀が銜えタバコを吹かしながら出てきた。そして、車のヘッドライトがあたる方向へと歩いていくと、そこに土砂が崩れ落ちた後があった。土砂に流された樹木も埋もれたままとなり、辺りには工事車両もない。もうこの土砂が崩れ落ちてからかなりの日は経つが、まだ元通りに直されようとしていなかった。
 竹中はしゃがみ、そこの土を取った。


 暗闇は、子供に夢を与える。明るい夢、悲しい夢、空想の世界が広がる夢。美月は楽しい夢を見ていた。昔、今よりもずっと小さかった頃、直也とシャリーと美月の三人は食卓を囲んでいた。
「ほら美月、野菜も食べなさい」
シャリーが大きな器に盛られているサラダを小皿に盛って、美月の前に置いた。
「ちょっとそこの醤油取って」
直也が言うと、シャリーはそばにある醤油を直也に渡した。
「今日の自治会は何て?」
直也が言った。
「何て事無いわ。いつもの畳屋のおばさんの自慢のクッキーを試食してお茶しただけ。あ、あと鉄道の話が出たわね」
「鉄道?」
 シャリーはサラダを口にいっぱい含んでいた。
「ドレッシング取って」
美月が言った。
「レバーも残さず食べなさい」
直也が美月の目の前に、食べ残されたレバーを見て叱った。
「……で、鉄道が何だって?」
直也が聞いた。
「この村に鉄道を通さないかって話が来てるのよ」
「パパ、ドレッシング取って」
美月が言った。
「誰から来た?」
「村長よ。神霧村から話が来たって」
「鉄道なんかいらねえよ。この村を壊すつもりか」
「パパ!」
美月が叫ぶと、ドレッシングをシャリーが取って美月に渡した。
「村長はどんな考えだ?」
「『みんなの気持ちを考えると、便利に越した事はないだろう』って」
「便利だろうが何だろうが、俺はこの村を出るつもりもねえ。この村を壊すつもりもねえ。おまえらがいれば十分だ。愛してるよ」
「何を言ってるのかしら、や~ね~。ほら、ご飯のお代わりは?」
シャリーは席を立ち、直也から茶碗を受け取ると台所に向かった。
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