二度目の恋
 私は暫く言葉が出なかった。自分の思いが高ぶって、その後の言葉を出すのに精一杯だった。だが、私は高山さんに自分の思いを伝えたかった。それはいつも高山さんは、私を優しく見ていてくれたからだ。高山さんを尊敬し、感謝し続けたんだ。今もそう、私の言葉をジッと、待っていてくれている。
「私は、高山さん以外に仕事をする気はなかった。様々な物語を作って、数々の賞も貰って、引退した。だけど私の中の物語で、たった一つだけ結末のない物語がある。その結末を見つけるため、ずっと探してた」
「じゃあ十年前からずっと、その物語を作っていたのか?」
「ええ……」
「その結末は、いつ見つかるんだ?」
「さあ、でも、そんな先の話ではありません」
「そうか」
「ええ」
「じゃあ、完成したら一番に見せてくれ」
「もちろんです。一番にお見せします」
「分かった。楽しみだ。俺は、おまえの物語を読むのが一番楽しみなんだ。それは年取っても変わらん」
「有り難うございます」
高山さんは、本当に嬉しそうだった。私は高山さんみたいに笑えず、ずっと湖を見ていた。
「松永……松永健太郎は元気ですか?」
 私は言った。
「相変わらずだ。おまえ、彼奴と仲良かったろ」
「ええ、親友でした」
「もう何年会ってない?」
「三十年です」
「三十年?何故会わないんだ」
「彼は、私を覚えていない」
「それはないだろう」
「いえ、きっと覚えていない」
「寂しがってるぞ。会ってやれ」
「はい、分かりました」
 私は立ち上がり、突然歩き出した。
「おい!何処へ行く」
 高山さんの声を後に、私は霧の中に消えていった。


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