二度目の恋
 霧のない日も珍しい。この日は朝から霧は現れなかった。神霧村の晴天は、あまり見慣れない鷹や鷲が現れる。
 村人は皆広場に集まった。綺麗な広場はロータリーとなっている。その数多くいる人々の中に橘恵子の姿、古希ガン太に静江、芳井秀夫、そして竹中直紀の姿もあった。皆この日を待ち望んでいた。そのロータリーの周りにはまだシャッターの閉まっている真新しい商店街となる店が立ち並んでいた。「えーテステス。あっあ。ウォッホン!」ロータリーの周りにある電柱に吊られているスピーカーから男の声がした。すると前方にあるステージに、男がマイクを持って現れた。「みなさん、お待たせしました。村長の浅倉唯です」その男は唯の姿だった。少し皺を寄せ、頭はハゲていた。タキシード姿で現れる。唯は天高く手を掲げると村人は歓声とともに拍手で唯を迎えた。「霧が無く、今日は晴天です。山がこんなに綺麗に見えたことが、嘗(かつ)てあったでしょうか。まるで空の野獣が私たちの歓声に恐れを為して、近づけないでいるようです。今日は何て素晴らしい日でしょう」ステージの後ろから、突然響き渡るうねり声がした。唯が後ろを振り帰ると、赤い屋根の大きな建物が立っており、その建物の前に赤いテープが引かれていた。神霧村駅と書かれている看板が屋根に掲げられていて、その奥から大きなうねり声と黒い煙が黙々と浮かび上がっていた。「ほら、みなさん。あの、吠え上がるような声が聞こえるでしょうか。静かな村に燃え上がるような魂を宿らせて、皆の希望を進めましょう。この村にもっと人を集めるのです。あの鉄の固まりに乗せて」唯は手をステージの後ろにある赤い屋根の家、神霧村駅を差すと、その奥から黒い煙が尖(とが)らせて汽笛が大きく鳴り響いた。
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