二度目の恋

第二十一章

 「女の色気は脚とケツにある」愁はタバコに火を付けた。まだ興奮して健太郎に話していた。健太郎は半ば呆れ気味に聞いて、タバコに火を付けて言った。「ヤッパ、項(うなじ)でしょ」
すると、愁はその言葉にすぐ反応した。「項か。それもあり得る。だけど僕はやっぱり美脚と持ち上げたようなケツだね」そう言うと、愁は健太郎を見た。すると健太郎は、タバコを吹かしながら愁を見上げて訪ねた。
「何で俺とそんなに親しくする訳?」
「……何で?」
 愁は急に落ち着きを取り戻し、静かに健太郎の隣に座った。
「いや、何でって、そりゃー気になるよ。だって、会って突然だもん。しかも新人の俺に何でって思うでしょ」
「直感だよ」
「直感?」
「おまえとは友達になりたかった」
 健太郎は愁を見ていた。
「僕には見えるんだ。いろんな物が、昔から……妖精や、物の影が見える」
 愁は真剣な顔でそう言った。
「妖精?」
 健太郎はその言葉に馬鹿にする訳でもなく、真剣に素直に聞き入れた。
「昔、友達がいた。初めてそいつに自分のことを話した。いろんな物が見えると……そいつは信じた。僕を疑わなかったんだ。それは、僕の中にあるイメージだとそいつは言った。僕は、こんな友達は初めてだと嬉しくなって、何でもそいつに話したよ。自分を知って欲しくて、いろいろ話した。だけど、ある日僕が道を歩いていたら、僕の目の前に過ぎるように見えたんだ。そいつが、もの凄い形相で僕のことを睨みつけていた。僕はそいつにその話をしたよ。二人で気味悪がった。でも……半年後に喧嘩して、連絡を取らなくなったんだ」
 健太郎は返す言葉も見つからず、そのまま愁の話を聞いた。
「嫌なんだ。いろんな物が見える。いろんな物が見えては消えるんだ。僕は何をしたらいい?何を思えばいい?どうしたら、見えなくなるのかなぁ。だから、胸が苦しくなって、その胸の奥で留まるんだ。物語を書いて、少しでも楽になろうとした」
「そうなんだ……」
 健太郎は素直に聞き入った。愁は仄かに笑って、健太郎にまた言った。
「でも、『友達になろう』って言ったのは、お前だけだ」
 健太郎は笑った。
< 178 / 187 >

この作品をシェア

pagetop