二度目の恋
暫くすると父は突然止まり、私は父にぶつかった。父は振り返り私に言った。
「湖だ。ほら、見てごらん」
 私は一歩前に出て、父の横に並んだ。すると草むらの向こうからほんの少し、青い光が漏れているように感じた。私は一呼吸して、最後の草の束をかき分けて、顔だけ覗き込んだ。
 すると、湖があった。思わず言葉を失ってしまった。
「どうだ、綺麗だろう。湖から青い光を放ってる。木や花や草が生きている。虫や鳥も集まる。村のみんなは、ここを知らないんだ」
 父は少し腰を下ろし、私の目を見て話し始めた。
「いいか、このことは二人だけの秘密だ」
「ママにも?」
「ああ、ママにもだ。パパとお前だけ、二人だけが知っている。いいか、男の約束だ」
 湖の岸に大きな岩がある。私と父はその岩に腰掛けて釣りをした。
 長い間、腰をかけていた。父と長い話をし、静かな時間が流れ、ずっと湖を見ていた。
 私はふと横を見た。するとそこには父の姿はなく、辺りを見渡した。<パパ?>まるで、この世界全てが私を覆うようだった。
 その時何か、湖に落ちる音がした。波打ちした。また音がして、波打ち、私の座る岩へとぶつかった。<誰か、誰か湖に立っている>その気配を感じ取り、私は岩の上に立ち上がってその方向へ目を向けると、激しい光が私の目を襲った。<眩しい>私は思わず目を背けた。太陽の光が水に反射して私の目に直撃したのだ。私は手でその光を背けながら、音がする方向へ目を向けた。人影が湖の上に見えた。<誰なんだ……>私の小さな手から光が漏れ、その人物がよく見えなかった。<顔が、顔が見えない……>カコーンと大きな音がした。その瞬間、バサバサバサと周りの樹木に隠れていた鳥たちが、一斉に空に飛び立った。その時だ。ほんの少し驚き、私の体が揺れ動いた。私の光を背けていた小さな手がその的から外れた時<見えた……>少女、少女が立っていた。<なんて、綺麗なんだろう……>少女の周りには、いくつかの光の玉ができていた。目が吊り上がっていて、髪は長くて艶があり、足も手も体の全てがほっそりとしてた。そして、瞳は澄んでいた。すると、少女は私の方へ歩き出した。私は少女を見た。少女の瞳を見ると、私の体が動かなくなる。ジッと少女を見続けた。だが少女は近づくことはなかった。私の方へ、私を見ながら歩いていたが、その距離は縮まることはなかった。
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