二度目の恋
ジリリリリン、ジリリリリン電話のベルが鳴り響いていた。昔懐かしい黒電話から鳴る、寂れた音のようだ。ジリリリリン、ジリリリリン電話のベルは鳴っている。私はパッと目を見開いた。気が付くと、ベッドで眠っていた。ジリリリリン、ジリリリリンまだ電話は鳴り止まず、響いていた。枕元に置いてある目覚まし時計を手に取って見ると、九時をまわってた。私は体を起こし、電話に出た。まだ、寝ぼけた声だ。
「はい、橘です。はい?あ、あー高山さんですか、どうもご無沙汰しています。どうしましたか、こんなに朝早く……え、見つかった?見つかったと言いますと……えっ?はい、ハハハ、見つかった。そうですか、見つかりましたか。そうですか、有り難うございます。はい、大丈夫です。ええ、今日、夕方の四時。はい、分かりました。伺わせていただきます」
 電話を切った。私は静かにベッドから降り、部屋を出て洗面台に向かった。そして鏡に顔を覗かせる。
 そこには、六十になる私の姿があった。白髪頭で、顔中に皺を寄せ、白い不精髭が這えていた。ほんの少し、両手で顔をたたいてみた。悲しく嬉しい思い出が、私の頭を過ぎった。私は階段をのぼり、一つの部屋へ向かった。その部屋にはさまざまな高級ワインやウイスキーが置かれている。それに賞状や楯がいくつもあった。それにはさまざまな『文学賞受賞』と書かれている。
 また奥にいくつもの段ボールの箱が、山積みされていた。その箱の一つを開けた。そこには一つのアルバムがある。そのアルバムを取り出し、ページをめくった。昔の思い出が語られた写真がいくつも貼られている。全てのページをめくり、そのアルバムを閉じた。そして置き、また私はその箱を見ると、アルバムに貼られていない一枚の写真があった。埃被った写真。私はその写真を取り出した。埃で写っている人物さえ分からなかったが、私にだけ、私にだけはその思い出があり、涙があふれ出た。その涙が写真に落ち、涙で写真からほんの少し人物が滲み出た。涙が止まらず、力強く感情を抑えた。私は指でその写真の埃を拭き取ると、写真から人物が浮かび上がり、ジッとその写真を握り締めた。
 そこにはまだ小さい頃の私と、もう一人、青い目の少女が写っていた。
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