二度目の恋

第一章

それはまだ橘(たちばな)愁(しゅう)が十二歳の春、輝く日曜日の朝だった。足の踏み場もないぐらいに物を広げ、部屋の整理をしていた。何からの整理していいのか考えていた。壊れかけの目覚まし時計、五歳のとき、母親が買ってくれたウサギの縫いぐるみ、埃だらけのオルゴール。愁にとって、何を捨てていいのか分からなかった。すべて大切なものだった。すべてが思い出詰まったものだ。
 階段を上がる足音が聞こえてきた。母親の恵子だ。橘恵子が部屋に顔をのぞかせると愁に優しく言った。
「愁、パパが裏山で呼んでるわよ」
「なに?」
「分からないわ、朝から何かやってるから手伝ってあげたら」
 いつも愁は父親の手伝いをしていた。だが部屋を整理しなければならない。∧駄目だ∨愁は辺りを見ながら思った。部屋全てに物を広げてしまったため、引き返すことはできなかった。愁は恵子に言った。
「今日は部屋の整理があるから、手伝わなくていい?」
 恵子は、部屋をよく見渡して言った。
「そうね、いいわ。でもパパのところへ顔だけ出してあげて、今日は、なんだかとっても機嫌よく裏山に行っていたから」
「うん、わかった」
 愁は立ち上がり、部屋を後にした。
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