二度目の恋
「神社に屋台が並ぶの。あんず飴、お面、かき氷、カラメル、綿菓子……でも、綿菓子しか食べたことがないんだ」
 愁は自分の発言に、思わず吹き出してしまった。美月も愁につられて笑った。
「何か、可笑しい」
 愁は言った。
「うん」
 美月は笑顔で頷いた。
「なんか美月のこと好きになっちゃった。美月は、僕のこと好き?」
 美月は頷いた。
「じゃあキスしようか」
 美月は愁のその発言に驚き、肩を窄めて恥ずかしく俯いた。
「好きだったら、キスするの当たり前だろ」
 愁は得意げに言った。美月が小さく頷くと、愁はそっと美月の顔に近付き、静かに軽くキスをした。日の光は煌めきを放ちながら、その二人をあてていた。
 「あんたー!」怒鳴り声と共に、窓からお皿、コップ、花瓶などが飛んできた。次から次へと、愁と美月の頭上を飛んでいった。愁は笑い、そっと窓から部屋の中を覗き「始まったよ」美月に言うと、美月も窓から部屋の中を覗いた。
 それは、壮絶な戦いだった。ガン太がフライパンで防ぎ、静江がありとあらゆる部屋にある物を投げつけていた。ここは古希邸だ。愁と美月は、裏庭から忍び込んだ。
 美月は驚き戸惑い、一瞬黙ったが「何?何があったの?」ガン太と静江の様子に、驚きを隠せなくて言った。「シー、しゃがんで!」二人はしゃがんだ。「昨日、ガンちゃんが、また賭けに負けたんだ」一息飲んだ。「賭け?」美月は聞いた。「くだらない賭けだよ。芳井おじさんと……」愁がそう話すと、美月は少しその話に興味をもった。「どんな賭け?」美月は興味深く聞いた。
「一ヶ月前からなんだよ。この一ヶ月で、静江おばさんが二キロ痩せるか、太るかで……」
「……で、どうなったの?」
「負けたよ。ガンちゃんが……」
「いや、そうじゃなくて」
「芳井おじさんが、二キロ太る方に賭けたんだ。ガンちゃんは、おばさんが二キロ痩せる方に賭けた。そしておばさんは、三キロ太ったんだ」
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